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ヴチェドルスカ・ゴルビツァ

1938年にクロアチア最東端の街、ヴコヴァル[Vukovar]郊外のヴチェドル[Vučedol]で、高さ20cmほどの3本足の中空の陶製の鳥の置物が発見されました。
現在はザグレブの考古学博物館に収蔵され、2014年に新たに発行された20クーナ紙幣のモチーフともなっているこの素朴な見た目の鳥の置物は、「ヴチェドルの鳩」を意味する「ヴチェドルスカ・ゴルビツア[Vučedolska golubica]」と呼ばれて親しまれています。
クロアチアでは、上掲の写真のようなレプリカが販売されており、おみやげとしても人気があります。

この置物を代表的な遺物として残すヴチェドル文化[Vučedolska kultura]は紀元前3000年から2500年の間、ちょうどシュメール人がメソポタミアを支配していたのと同時期に、チェコからアルバニアにかけての広いエリアに広がっていたとされます。インド・ヨーロッパ系民族が築いたこの文化の中心地として、ヴチェドルには一時約3000人が暮らしていたようです。
人々は主に牛の飼育と銅の鋳造に従事しており、世界で最も早くから銅を用いた製品を製造して栄えていたとされています。
繊細なジグザグ模様などで装飾された食器や水差しのほか、鳥だけでなく様々なモチーフの置物も造られていました。これらの置物は、鋳造に関わる火の神を崇めるなどしたシャーマニズム的な信仰と密接な関わりがあるとされています。
また、ヴチェドル文化では、人々はオリオン座をはじめとした星の動きをもとにした暦を用いていたようで、陶製のヨーロッパ最古の暦のひとつが同じくクロアチア東部の街、ヴィンコヴァツ[Vinkovac]で発見されています。

Vučedol
ヴチェドルの位置はこちらの地図をご覧ください。

ドナウ川に面したこの地域は、クロアチア独立戦争の際には激戦地となった歴史も背負っています。
古代から様々な民族が共生し、文化の十字路にあったこの地のいくつもの平和と戦乱の歴史を乗り越えて今に残るこの鳥の置物を、平和の使者として親しまれる鳩とする呼び名は、特別な意味も含むものですが、実は、鳩[golubica]ではなくヤマウズラ[jarebica]を模したものであり、子孫繁栄への願いを込めて造られたとの説が有力とされています。

下記からザグレブ考古学博物館による3Dモデルをご覧いただけます。